2020年の映画について

 

1年の間に見た映画について総括をして、ベストを考える

いちおうこの10年間毎年してきたことなので、今年も。


 2020年に公開された映画の中で

自分にとってのお気に入りの9本。

こういう時は10本選ぶのが多いんだけど、

全然新作を見なかった2019年に、

Instagram の投稿画像のサイズを合わせるために

正方形に入りきる9本で決めて見たら意外とそれがよかったのと、

ひとつ足りない感じがいいなと思い、今年も9本で。



『アンカット・ダイヤモンド』


『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』


『三島由紀夫vs東大全共闘』


『ハーフ・オブ・イット』


mid90s


『スパイの妻』


『続ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』


『マンク』


『燃ゆる女の肖像』







『アンカット・ダイヤモンド』

今年の初めにこの映画について書いた時は


”見終えたあとの混沌とした気分が格別で

今年見た中でもトップクラスに面白い。

『凪待ち』×『スカーフェイス』ともいえる

ギャンブル泥沼バイオレンススリラーなのに

サンドラーのキャクターがすごすぎて

映画が左右前後どこに転がるか全然読めない。


プラス要因もマイナス要因も

全てをガソリンにすごい力技で物語が進んでいく


本編とサントラが掛け算になって

この映画がすごく独特なものに見える”と書いていた。


この映画は家でも映画館でもなく、

電車の車内で最初から最後まで見た。

コロナ前までは移動中の電車でよく

Netflixの映画やTVシリーズを見ていた。

中断・中断で見ることになるんだけど、

もう本当に面白くて電車の車内で、

終盤の面白さに打ちひしがれた記憶がある。

 



『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』

コロナ禍の記憶は曖昧になる。

自分の中では春先の記憶なんだけど、

一度延期になり、宣言後に公開されているはずだから、

初夏に見たのだろう。


今のアメリカのインディペンデント映画が極めつつある

生々しく簡潔でいてあたたかな文体で

古典の文芸が綴られると、こんなに重厚になるのかと。

宣言明けにこれを見て、

映画って本当に面白いなと震えることができた。




『三島由紀夫vs東大全共闘』

これも優れたドキュメンタリかと言われれば、

貴重な映像の資料的価値に依拠するタイプのドキュメントで

現代の論客のインタビューなど、

不要に思える部分もあったけど、

この映画をみて初めてあの時代の熱と、

三島という人間を

実感を持ってしれたなという。

言ったこと、やったことはいくらでも知れるんだけど、

学生らと討論するときの間合いであったり、

表情の変化だったり、

スクリーンから漂うカリスマ性を感じていた。


これも3月公開かな?

新作の公開がどんどんとんでいく中で、

映画館への入り口が閉じていくような気持ちの中、

独特な緊張感の中で見た。




『ハーフ・オブ・イット』

これもNetflixのロマンチックコメディ。

抜群に面白くて、

知的でユーモラスで、シナリオも完璧だった。

ナンセンスな邦題がついてしまったのと

スターが出ていないせいか

あまり話題になっていなかったが、

今年のネットフリックス映画で、

心の底からお勧めできる1本は間違いなくこれだろう。




mid90s

これも見た直後は

年間ベストに入れるとは思ってなかったけど、

しばらく経ってからも時々観た時のことを思い返していて、

自分の中でのポジションが高くなっていった。


最近量産される80’s90’sの

味付けの濃い懐古主義的なものとも少し違って、

小中学生の頃に見ていた夕暮れの景色と、

少し危険な友人や遊びに

惹かれた時代への思いを馳せる感じ、

A24映画らしい、

このトーンのアメリカ映画が

まさに今のアメリカ映画だし、

これを映画館で見ることがしあわせ。




『スパイの妻』

これは最後がイマイチだったので

最近の黒沢清の映画(濱口竜介脚本の映画とも言える)の中では、

久しぶりによかったという部類だったんだけど、

これを観た友人と話してるときになかなか話が盛り上がって

あのシーンがやばいとか、

あのセリフがすごいとか

やっぱりこの映画好きじゃんと思った。

「僕はコスモポリタンなんだ」とか台詞回しに驚いた。




『続ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』

いやー、最高ですよ、これは。

今年すごく楽しかったのは、

いつもだと洋画の新作は日本だと

数ヶ月遅れで公開されることになるのに、

配信リリースが増えて、

日本含め全世界同時で配信で見られるようになったこと。

例えばこのボラット2が公開になったのは

米大統領選の1週間前とか?

これを半年後に見たのでは全然意味が変わってくる。

(こんな風に僕らは

結構旬を損ねた洋画を見てきたんだろうな)


コロナの影響で中盤から映画の展開が完全に変わっていく、

でもそれゆえに映画が一番面白い方向へ転がっていく。

まだ誰もコロナを笑えない状況で一番最初に

かなりエクストリームな

ブラックジョークにした世界最初の映画でしょ。

コロナがこの映画をブーストし、

この映画が米大統領選に影響を与えた。

この映画ほど

2020年の狂騒が刻まれている映画はないかもね。


『さらば2020年』もそうだけど

現在進行形で起きている社会問題を

もうここまでブラックユーモアと

リアルタイムで編集して作品にする

アメリカ映画の貪欲さはすごい。




『マンク』

今年は2014年の

『インターステラー』と『ゴーン・ガール』以来

クリストファー・ノーランとデヴィッド・フィンチャー、

現代アメリカ映画の最高峰の監督2人が

新作を公開した年になった。


Netflix映画だけど、

これは2020年最後の重要作だなと思い、

先行公開を隣町の映画館まで見に行った。

『市民ケーン』も久しぶりに見返して予習したし、

思いっきり楽しみにして、思いっきり楽しんだ。

戦後ハリウッドの撮影スタイルを

徹底的に再現した映画的快楽はこの上ない。

自分以外の観客が年配の人が多いこともあって、

世界最速で見ているはずなのに、名画座にいる気分に。




『燃ゆる女の肖像』

2020年の初めから話題になっていて、

全然日本公開も決まらず。

年の暮れにようやく映画館で見ることができた。


見る前からわかっていたけど、完璧な映画でしたよ。

もうファーストカットでわかる。

「ストーリー・オブ・マイライフ」もだけど

冒頭のボートの揺れも、蝋燭の火も、

絵の具も、布切れも、月光も

電力がない時代の生活を緻密に描く映画は、

不思議な感慨をもたらす。

この映画の魅力については

結構こないだ人と話してしまったので、

もう一度要約する気にはならないのですが、

『君の名前で僕を呼んで』や

『アデル、ブルーは熱い色』と同じように

観た時のままずっと

同じ存在感で自分の心に残り続ける映画だと思う。




こんな感じでしょうか。

三島由紀夫の枠はギリギリまで

『シカゴ7裁判』するつもりだったけど

配信ばかりのアメリカ映画ばかりになってしまうし、

やはり映画館で得た興奮を優先しようと思い、こちらに。



そのほかの映画も

挙げておきたいものについて書いておきます。



『リチャード・ジュエル』『フォードvsフェラーリ』

『パラサイト』ももちろんベストのうちの1本だけど、

やはり2019年の映画という気がしてしまうので、外しました。

公開は2020年なんだけど、

見ているときの自分が2019年なんですよね。



テイラーのドキュメンタリー

『ミス・アメリカーナ』も今年を象徴する1本だった。

この映画の公開と、アルバム2枚のリリースがあって、

今年はテイラーの年だったと思う。

ポップスターというのは私生活を犠牲にし、

大衆の期待やイメージを

背負うアイコンというのが彼らの歴史なわけだけど、

彼女はそこから脱却をしていくのかなと思う。とても自然に。

自分のプライベートライフ、メンタルヘルスを整えて、

しっかりと根をはった生活をすることが、

豊かな創作につながる、

表舞台に立ち続けなくても

スターとしてのプロップスも維持していく。



ライブをしなくなって、

レコーディングに専念した後期ビートルズが

名盤をたくさん生み出したようなことが、

今後他のアーティストで起こりうるのかなとも思った。

レコーディングの時間が増えるからだけじゃなく、

健康的で自由なメンタルから

生まれる作品があるはずということ。



『レ・ミゼラブル』も結構すごかったよね。

この映画とか21世紀の資本』とか19年製作の映画なのに

あまりに20年の世界経済や

BlackLivesMatterとリンクし過ぎていて

映画を見ていてまるでニュースを見ているのでは?というぐらいの

不思議な気持ちになることがあった。

そう考えると、自分が気づいていなかっただけで、

世界中にずっと常に火種があって、

より多くのものが表面化したのが今年だったのだろう。



『タイム』もとても簡潔で美しい映画だった。

アマゾンプライムで配信された

夫が銀行強盗の罪で20年間

収監されることになった妻と家族が

夫が家に戻って来るまで待ち続けていた日々を

凝縮したドキュメンタリー。

2020年だからこそBLMものとして

括られてもおかしくないテーマだけれど、

モノクロであること、

被写体とカメラの位置が遠く、

絶妙な距離感で見つめていること、

響きのあるピアノのサウンドトラック、

うちに秘めた怒りと絶望感にフォーカスしていること、

あれこれがこの映画をアートにしていると思う。



アメリカのメジャー映画も公開本数が少なかった。

『透明人間』は例年であれば

それほどの印象に残らなかったかもしれないけど、

今年のラインナップを振り返ると、

かなり楽しんで観られたなと。

このキリキリした緊迫感を2時間持続させて、

カットを割らずに、

凝った撮影でアクションやホラーシーンを見せる

この監督の独特な演出など、

とてもエッジの効いた秀作だったと思える。

前作『アップグレード』も傑作なので、ぜひ観て欲しい。



山崎賢人と松岡茉優の『劇場』もいいところはあったんだけど

売れない役者を主人公と彼女の同棲生活を

主軸にした映画でいうと

『佐々木、インマイマイン』の方がより

アイデアと展開と

夜明けのような活力に満ちていて好きだった。

佐々木~は芝居が乗り切っていないと感じたのか

前半はあまりいいと思えなくて、

インディペンデントの監督が、

そのまま自分の生活を投影した

貧乏くさい映画なのではと思ってみていたけど、

映画の構造が見え始めてからは、

後半はグッとくるシーンが続いて、

生きることの熱を帯びて映画が終わる。




ここまであれこれ書いたので、

乗り切れなかった映画についても。



『テネット』はちょっと期待はずれでした。

フィンチャーとノーランに共通するのは、

エモーショナルな作劇よりも、

作り込まれた映像に快楽があるところ

フィンチャーは簡潔なシーン構成、

ノーランは知的興奮を伴うシナリオ。

ある種その期待には応えてくれたのかもしれないけど、

やっぱり『テネット』は視覚的な興奮が足りなかった。

逆回転も、飛行機の爆破も、終盤の戦場も、

トレーラーからは期待できたのに、

どうも芯が細いと感じた。


でもこの映画が公開されることが

2020年前半最大の希望だったし、

興業的な失敗や、

洋画への期待を単体で背負っていたのは間違いないなく

2020年のエピタフのような映画だと思う。

こんなように映画は、

意外と面白いつまらないで決まらない。

楽しめる映画も楽しめない映画も、

自分の中でいろんな価値をもたらす存在として残り続ける。


自分にとってつまらない映画があるとしたら、

それにすら値しない空気のような映画だろう。



『ミッドサマー』も話題になっていたけど、

自分はそれほど評価してません

この監督の前作『ヘレディタリー』ほどのパンチに欠けるのと、

どうしても現代版『ウィッカーマン』として

見るには筋が似過ぎていて、

終盤に進むにつれて結構萎えてしまいました。



『浅田家!』って、

観た人みんなが感動すると思うし、

いわゆるすごくいい映画だとは思います。

この監督の『湯を沸かすほどの熱い愛』もだけど、

本当に人を信じたいと思える人間同士のドラマを描くし、

見終えた後にあの会話が良かったよねと

話したくなるようなヒューマニズムがあるんだけど、

この映画の中で、海辺で家族写真を撮るシーンがあって

そのシークエンスが終わって、次のシーンに移る時に

結構音楽もカットもぶつ切り感があったんですよね。

それがすごく気になってしまって、

これはいいエピソードのオムニバスであって、

ドラマっぽいな、

映画的な呼吸が欠けている気がしてしまった。





ロックダウン期は、旧作もたくさん見れて

映画的にはなかなか充実した1年。



2021年が来ました。


問題提起も先を憂うことはいくらでもできるけど、

とりあえず映画をみようと思う。

心動かされ、語ろうと思う。


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